「動脈解離で最も危険な大動脈解離とその手術(前編)」では、大動脈解離での予後がおもわしくない理由についてご説明致しました。
後編では、 大動脈解離 にはどのような 手術 方法があるのかご説明致します。ステントグラフト挿入術などは、先進医療として限られた施設のみでおこなうことのできる手術となります。
動脈解離で最も危険な大動脈解離とその手術(後編)
下半身が麻痺する大動脈解離
大動脈解離の分類でスタンフォードB型があります。A型との違いはA型以外の解離を意味します。正しくは上行大動脈に解離がないものであり、弓部大動脈以降で解離が起きたものを指します。スタンフォードB型はA型のような心臓や脳への併発症はありません。
よって緊急手術を要することも少ないタイプです。しかし、下行大動脈から枝分れした動脈は、胃や肝臓などの消化器臓器や脊髄などに血流を送っていることもあり、解離によって大動脈からの血流に頼っている臓器に影響を及ぼすことがあります。問題なのは真腔と偽腔の血流量の違いです。
真腔と偽腔の血流量が同じであれば良いのですが、偽腔側に血流が多いと大動脈瘤化となり真腔を圧迫します。真腔より枝分れした動脈は血流不全となり臓器虚血となります。また偽腔は脆弱なため、いずれ破裂する恐れがあります。
逆に真腔側に血流が多いと大動脈瘤化のリスクが低くても、血流量が少ない偽腔はやがて血栓を形成してしまいます。こうなると偽腔側から枝分れした動脈が血栓閉塞することで、これまた臓器虚血となります。
その中で脊髄の動脈が血流不全となると、下半身が麻痺してしまう対麻痺になることがあります。命はあっても生活に支障を残す障害があるのが、スタンフォードB型の怖いところです。
手術治療でも中々助からない
大動脈解離は基本的に手術治療となります。解離した大動脈を切除し、人工血管を移植する手術です。大動脈は血液を全身に送る役割があるため、血流量は非常に多いです。ひとたび手術といっても出血量が多くなり、随時輸血などで補いながら行います。
また、心臓を一度止め、人工心肺を用いて補助循環を行うことから、手術自体の侵襲性が高いことがいえます。
スタンフォードA型は緊急手術となり、身体が不安定な状態で手術を行わなければなりません。
上行大動脈と弓部大動脈は、両腕や脳へ血液を送る枝分れした動脈があり、スタンフォードB型は、臓器虚血がなければ基本的に保存療法となりますので、血圧を低く安定させ、偽腔を血栓閉塞させることで固定化する治療法です。
治療に時間を要しますが、手術と比較して予後は良好です。ただ、解離による臓器虚血や偽腔の血栓閉塞がうまくいかない場合、人工血管を移植する手術となります。
大動脈解離の血管内治療
大動脈解離から解離性大動脈瘤となった場合、スタンフォードB型に対してのみステントグラフト挿入術が認められております。そもそもステントグラフトとは、ステントと呼ばれる金属製の網があり、その周りを人工血管が覆っております。
使用前は小さく折りたたんだ状態ですが、足のつけ根からステントグラフトを装着したカテーテルを解離性動脈瘤の部位まで挿入し、ステントグラフトを加圧することで折りたたんでいたものが拡がります。
解離性大動脈瘤は体内に残りますが、その内側から人工血管を挿入しているため、瘤の拡大や破裂の危険性は低くなります。
このような血管の中から治療する方法を血管内治療といい、従来の大動脈を離断して人工血管に移植する方法よりも、出血が少なく、人工心肺を使用せずとも手術が行えるため、高齢者への適応が期待できます。
しかし、現在のところ先進医療として限られた施設のみが行える手術です。保険適応ではないので、費用もある程度用意しなければなりません。
まとめ
動脈解離で最も危険な大動脈解離とその手術(後編)
下半身が麻痺する大動脈解離
手術治療でも中々助からない
大動脈解離の血管内治療