動脈は3層構造であり、内側から内膜、中膜、外膜となっています。その内、何らかの原因によって内膜が破けてしまうことを解離といいます。人間の臓器に血液を循環させる大動脈が解離を起こすと、約20%の方は発症から病院到着までのうちに死亡してしまいます。
今回は死亡リスクの高い 動脈解離 のなかでも最も危険な大動脈解離とその 手術 についてご説明いたします。
動脈解離で最も危険な大動脈解離とその手術(前編)
大動脈解離の死亡率が高い由縁
大動脈は心臓と接合しており、心臓から拍出された血液を体内に循環させるための大通りです。大動脈から枝別れした動脈が各種臓器と接合し、血液を絶えず送り込んでいます。
この大動脈が解離すると、破けた内膜から血液が流れ込み、本来血液が流れる走路とは別にもうひとつの走路ができます。
本来流れる走路を真腔と呼ぶことに対し、解離でできた走路を偽腔と呼びます。動脈は本来3層構造で血圧に耐えられていますが、偽腔は中膜と外膜の2層構造となりますので、血圧に負けてしまうことがあります。
血圧に負けた動脈は次第に膨らみ大きな瘤を形成します。これを解離性大動脈瘤といいます。解離性大動脈瘤は進行が速く、短時間で破裂による出血があるため、1分1秒が命とりとなる病気です。
大動脈解離の症状は突然の背部激痛であり、解離の重症度が高いほど痛みは強くなる傾向があります。気がつかないことはほとんどあり得ないため、症状があれば救急車を要請して医療機関に向かうことが重要なのです。
生命予後が悪い大動脈解離
大動脈の走路は、心臓から首の方へ上向きに走行し、そこからアーチを作って下向きに走行します。大動脈は胸から腹に走行して、やがて両足に循環させるため2つに分岐します。
大動脈は心臓から両足に循環させる分岐点までとし、胸部にある大動脈を胸部大動脈、腹部にある大動脈を腹部大動脈と呼びます。
胸部大動脈も3つに分けられ、心臓との接合部を上行大動脈、アーチを弓部大動脈、アーチ以降から横隔膜付近の高さまでを下行大動脈と呼びます。
大動脈解離は胸部大動脈に発生することがほとんどであり、解離している部位で重症度と治療方法が異なります。
胸部大動脈の中で、心臓接合部かその付近から解離をすると、命の危険性が非常に高くなります。これをスタンフォードA型と呼びますが、命の危険性が高い理由をいくつかご紹介します。
スタンフォードA型は、解離することで出血を起こし、心臓を包んでいる心のうに血液が溜まります。
海やプールの中で体を動かすと、地上と比較して動きが遅くなることがあります。心のうに血液が溜まることは、水の中で心臓を動かしていることと同様で、心臓には相当の負荷がかかります。やがて心臓の動きも鈍くなり、心停止を起こすことがあります。これを心タンポナーデと呼びます。
心臓と大動脈の接合部にある冠動脈があり、この冠動脈は心臓へのエネルギーを供給する動脈です。スタンフォードA型は、解離した内膜が冠動脈を塞いでしまうことがあり、急性心筋梗塞を併発することがあります。
また、大動脈の解離が脳へ枝分れしている脳動脈にまで波及し、脳卒中となることがあります。
このようにスタンフォードA型が予後不良の理由は、大動脈解離以外にも重症な併発症があるためです。治療は手術治療以外に道はありません。
まとめ
動脈解離で最も危険な大動脈解離とその手術(前編)
大動脈解離の死亡率が高い由縁
生命予後が悪い大動脈解離