血管は3層構造であり、内側から内膜、中膜、外膜と構成されています。そのうち、内膜が何らかの原因で破けてしまうことを解離と呼びます。
サイズの小さいズボンを想定していただくとわかりやすいですが、少しでも破けると圧力に負けて瞬く間に拡がってしまいます。血管でも同様なことが起きるのです。
今回は 動脈解離 について詳しくご説明します。
生命予後の悪い動脈解離とその病態
解離は通り道が2つにわかれてしまうこと
血管の内膜が破けると内膜と中膜の間に血液が入り込み、1本の血管の中に血液が流れるルートが2つにわかれてしまいます。解離がない正常なルートを真腔と呼び、解離でできたルートを偽腔と呼びます。
2つにわかれることの問題は、人間の血管は血圧に耐えられるように3層構造となっているため、偽腔では血圧に耐えられない状態です。血圧に耐えられなくなった血管は瘤のように膨らみ動脈瘤と化します。
そのまま放置しておくと破裂してしまいまい、生命維持が危ぶまれます。これを解離性動脈瘤といいます。
もっとも危ない大動脈解離
動脈解離の中で最も重症なのは大動脈解離です。心臓から拍出される血液は、この大動脈を通じて全身に循環します。
大動脈から枝分れした動脈が各臓器への橋渡しとなりますが、解離が広範囲に及んだ場合、破れた内膜が枝分れした動脈の根元を塞いでしまい、臓器の循環不全を起こすことがあります。予後は非常に悪く、適切に手術治療を行わないと多臓器不全に進行して死亡しまうこともあります。
大動脈と心臓の接合部から解離すると、その部位には心臓のエネルギー供給ラインである冠動脈があります。破れた内膜がこの冠動脈を塞いでしまい、心臓へのエネルギー供給ができない状態となります。こうなると心臓の筋肉は壊死してしまい、心筋梗塞となるのです。
解離は脳卒中の原因となる
大動脈解離以外にも脳血管も解離を起こします。脳血管には頚動脈と椎骨動脈があります。どちらも解離することがあり、欧米人には頚動脈解離が多く、日本人は椎骨動脈解離が多いです。
病態は主に2つあり、破けた内膜が血液に触れることにより、急激に血液が固まり始めます。これを血栓といい、この血栓が動脈を塞いでしまうことで起きる病気を脳梗塞といいます。
もうひとつは、解離したことで脳動脈瘤となり、この脳動脈瘤が破裂することで起きる脳出血があります。これは主に頭蓋内で起きることが多く、くも膜下出血となることが非常に多いです。
この2つの病態は、治療法として真逆であり、脳梗塞となった場合は、血栓を溶かす治療が必要となります。人工的に血液がかたまりにくい薬剤を使用するため、重大な副作用として出血があります。
くも膜下出血は、出血を止める必要があり、コイルのような人工物を入れ、あえて血栓を作り出して出血を止める治療を行います。病態と治療を誤ると、それぞれの病態を助長させてしまうこともあり、診断が極めて重要となります。
医療が原因となる解離
狭心症や心筋梗塞、末梢動脈疾患の治療には、カテーテル治療が行われることが多い時代です。この治療は、狭窄や閉塞した血管に風船付カテーテルを挿入して、風船を膨らますことで血管を拡張させる手術です。
カテーテル治療は従来の外科手術よりも低侵襲で行えることがあり、治療の第一選択となっています。
しかし、この治療法は、狭くなった血管若しくは閉塞した血管にカテーテルを通過させる必要があり、風船付カテーテルを挿入する前に細いワイヤーを通過させます。このワイヤーの操作で動脈の内膜に傷がつき、解離してしまうことがあります。
技術的な問題か病態の問題かは問わずとしても、治療が原因で起きる医原性動脈解離があるのです。幸い治療中に起きることから、スムーズに初期対応が行え、風船付カテーテルを膨らますことで偽腔をつぶして真腔に血流を戻すことができます。
動脈解離を事前に見つけることは不可能
動脈解離の原因は、医原性動脈解離以外に脳動脈解離ついては、外的損傷によるものや首をひねることや回すことで起きることがあります。
大動脈解離は突然発症するため、原因は不明なままですが、高血圧や動脈硬化の方に多いこともあり、リスクファクターとして認識されております。いずれも動脈解離は急に発症するため、予防することはできません。
症状として、大動脈解離は急な背部痛が主症状となります。痛みといっても黙っていられない痛みであり、麻薬を使わないと痛みがとれないほどです。
脳動脈解離は首や頭部、顔面が急激に痛むことがあります。急な背部痛や首を動かした後にこの症状がでた場合は、早期に医療機関に受診することが必要です。
まとめ
生命予後の悪い動脈解離とその病態
解離は通り道が2つにわかれてしまうこと
もっとも危ない大動脈解離
解離は脳卒中の原因となる
医療が原因となる解離
動脈解離を事前に見つけることは不可能