胃潰瘍 は十二指腸潰瘍と合わせて消化性潰瘍と呼ばれ、酸の分泌が多いため胃の粘膜を攻撃してしまう病気です。以前は胃潰瘍に対する治療が胃の全摘手術という時代もありましたが、現在は医学の進歩により内服薬による 治療 で症状が改善することが多いです。
胃潰瘍の治療は早めに始めましょう
胃潰瘍における治療の意義
日本の胃潰瘍の原因は、ヘリコバクターピロリ菌と薬剤(特に非ステロイド性消炎鎮痛薬)と言われています。ピロリ菌は胃潰瘍の70%を占め、除菌することにより胃潰瘍の再発や胃がん発生のリスクを抑制します。
ピロリ菌はほとんど免疫力の弱い小児期に感染しており、自然に排出されることはないとされています。感染経路は、ピロリ菌に感染した母親から口移しで食事を与えられたことによる経口感染が多いです。
酸性である胃の中では、普通の菌は存在できませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を分泌し、胃の粘液中の尿素からアンモニアを産生し周囲の胃酸を中和するため、除菌治療をしない限りは一生持続感染します。
このように何年もかけて胃の粘膜の防御機能を低下させ、胃粘膜の障害、炎症、萎縮を引き起こし胃潰瘍や胃がんの原因になります。胃潰瘍は、時に出血、穿孔を起こし命の危険もあります。
日本人のピロリ感染者は約6000万人と推定され、特に50歳以上で多いと言われています。胃潰瘍は50歳を過ぎたら、胃の不快感がある人だけでなく、症状がない人も上部消化管内視鏡(胃カメラ)を受けて確認した方が良いでしょう。
胃潰瘍の治療内容
胃潰瘍は、胃の酸が粘膜の防御力より勝ってしまうことにより起こります。胃の酸を抑制する薬剤であるH2ブロッカーの登場で胃痛に悩む人は減少し、さらにより強力に抑制するプロトンポンプインヒビターにより胃の不快感はほとんど抑制できるようになりました。
しかし、内服を中断すると症状が再発し、胃潰瘍の原因にピロリ菌の存在がある場合には除菌治療が最も有効です。除菌治療は保険診療で受けることができます。
非ステロイド性消炎鎮痛薬が原因の場合には、その薬剤を中止し上記の薬剤を内服します。非ステロイド性消炎鎮痛薬はアスピリンが有名ですが市販薬のロキソニンやイブなどの頭痛薬、生理痛薬も含まれます。
また最近では高齢化の影響で、整形外科などで腰痛に対して非ステロイド性消炎鎮痛薬が処方されることも多く、大量に内服しないように注意が必要です。
これらの内服薬は、胃の粘膜を守るうえで重要なプロスタグランディンの合成を抑制する作用があり、そのため胃の粘膜の防御機構が崩れて胃潰瘍が形成されます。非ステロイド性消炎鎮痛薬以外の薬剤を選択するか、胃の粘膜保護薬を同時に処方することで予防できます。
もし胃潰瘍が出血、穿孔を起こした場合には、胃カメラで直接止血をするか、手術になります。命を優先させるため、このような緊急時には胃潰瘍による出血でも胃を全部摘出することもあります。
胃潰瘍の除菌治療
ピロリ菌を除菌しなければ、1年後には60%以上の患者さんが胃潰瘍を再発します。除菌療法は、ピロリ菌に有効な抗生剤を2種類と胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプインヒビターを朝と夕方、1日2回1週間続けて内服します。
これを一次除菌と呼び、80~90%の患者さんは除菌成功になります。一次除菌で成功しなかった場合には二次除菌を行います。1種類の抗生剤を変更し、再度1日2回1週間内服します。
この治療で90%の患者さんが除菌成功となります。除菌できているかの確認は、内服終了1か月後に尿素呼気テストを行います。この検査は、呼気を採取し、ピロリ菌がもつウレアーゼで作られる二酸化炭素の量を調べます。
胃潰瘍の除菌治療の注意点
除菌治療中は、抗生剤の影響で下痢や軟便となることがあります。これを防ぐために、整腸剤も同時に処方されることもあります。また、薬剤の副作用で味覚異常や肝機能障害を認めることがあります。
治療中は効果が減弱してしまうため、喫煙、飲酒は控えるように指導されます。除菌治療後に5~10%の患者さんに逆流性食道炎が起こることがあり、これはピロリ菌の除菌で胃酸が正常に分泌されて起こるとされていますが一時的なことが多いです。
胃潰瘍の除菌治療不成功の原因
一次除菌で使用するクラリスロマイシンに対する耐性菌の出現で、除菌率が低下していると言われています。クラリスロマイシン耐性菌であることが分かっている場合は、カルテに記載し二次除菌から開始することも可能です。
また内服をしっかりしない服薬コンプライアンスの低下が指摘されており、中途半端な内服は耐性菌の増加を助長してしまいます。
まとめ
胃潰瘍の治療は早めに始めましょう
胃潰瘍における治療の意義
胃潰瘍の治療内容
胃潰瘍の除菌治療
胃潰瘍の除菌治療の注意点
胃潰瘍の除菌治療不成功の原因