前もって「延命治療は望みません。」と家族に口頭で話をしていたものの、意識がない状態でいつのまにか 人工呼吸器 を装着する流れになったまま何ヶ月も入院してしまうケースは、かなり多いようです。
そこで今回は、延命治療と 看護 についてお話します。
人工呼吸器をつけるかどうかの判断 延命治療と看護について
どういう場合に人工呼吸器をつけることになるのか
人工呼吸器がつけられるときとは、呼吸不全つまり自発呼吸ができなくなったときです。
自発呼吸ができなくなった場合、治療により改善するまで呼吸を補助するもので、空気と酸素を混ぜ合わせて肺に送り込みます。
呼吸不全の原因はさまざまです。呼吸機能の低下がみられて酸素が十分に体内に取り入れられず、血液中に酸素が足りなくなっている状態なので、そんなに特別な病気でおこるわけではありません。
急に呼吸不全がおこる場合で考えると、交通事故などの全身を強く打った場合や、ひどい火傷、また肺炎や敗血症などが考えられます。
飲み込んだものが器官に入り込んでおこる「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」でも十分にありえますので、健康だと思っていた方が突然に・・・というケースもあるというわけです。
また、慢性的な呼吸不全では肺結核の後遺症や肺繊維症などがありますが、一番多いのはCOPDと呼ばれる喫煙者の20%~30%に発症する慢性閉塞性肺疾患と言われています。喫煙はハイリスクなので身近に遭遇するケースがあるかもしれません。
人工呼吸器をつけた状態での暮らし
人工呼吸器は自発呼吸ができているものの少し弱いので補助をするという酸素のボンベによる酸素吸入とは違います。テレビでよく見かける酸素マスクでも、鼻カニューレという鼻から吸えるチューブでもありません。
自発呼吸が全くない状態で装着するもので、口の奥まで管を差し込む「気管挿管」または気管切開をして、機械的に肺に直接空気と酸素を送るということになります。
これは本来の肺の動きの圧力(陰圧呼吸)とは逆の圧力(陽圧呼吸)を利用するものなので、管理次第ではなんらかの障害が起きてしまい合併症が命にかかわることも多いようです。
そこで、人工呼吸器を装着した場合は、常時看護が必要となります。気管挿管の場合は痛みも伴うので、鎮痛、鎮静のため薬の投与の管理も重要ですし、人工呼吸器の不具合がないかなど回路の確認も必要です。
また、人工呼吸器の画面に出てくる波形から状態を読み取って、痰が溜まっていたら吸引するなどの処置も重要なので、目が離せない状況といえるでしょう。
人工呼吸器をつけるということは、自発呼吸ができない期間ずっと看護が必要ということです。
周囲に理解者協力者が大勢いて、自宅で訪問看護を受けながら交代して看護しながら生活されている方もいますが、相当な知識と労力が必要となるということは考えておくべきです。
急性期の病院では装着はしたものの、自発呼吸は戻って来ず意識のないまま症状が固定してしまうと転院の必要があるのですが、人工呼吸器を扱えて受け入れてもらえる病院はほとんどなく、在宅で看られる環境も整わず頭を抱えるケースが多いのが現状です。
元気なうちに意思表示をしておく必要性
患者本人が意思疎通できない状態になってしまうと、治療の判断は家族がしなくてはいけません。しっかり判断ができる元気な頃から、自分の終末期はどうしたいのかを考えておき、家族に口に出して伝えておくということが必要です。
高齢の方が病気治療の入院中に肺炎をこじらせ、急変して呼吸不全になってしまうことは珍しいことではありません。
急変と聞いて慌てて駆けつけた家族がパニックになっていると、救命の様子を見て、勢いで人工呼吸器の装着を希望するかもしれません。
そして、家族の心理状態が落ち着いてきてから「月日がたっても意識は戻らないし、もう静かに眠らせてあげたい」と思ったとしても、人工呼吸器は一度装着すると、自発呼吸がしっかりあるのが確認できるまで外すことはできないのです。
「人工呼吸器をつける」ことは、24時間体制で看護が必要になるのということも知った上で、金銭的な面も十分に考えておく必要があります。
そして「延命治療を望まない、人工呼吸器はつけたくない」と判断できるうちから文書で明確化しておくと、たとえ家族が反対したとしても本人の意思が明確なら動かないと言います。
人の気持ちはあれこれ変わるものです。普段から家族に自分がどのような最期を迎えたいのかを話しておくことは重要です。理解してもらうことができれば同じ方向性で悔いなく最期が迎えられるのではないでしょうか。
まとめ
人工呼吸器をつけるかどうかの判断 延命治療と看護について
どういう場合に人工呼吸器をつけることになるのか
人工呼吸器をつけた状態での暮らし
元気なうちに意思表示をしておく必要性