飲食物が飲み込みにくい時は、口から胃までの経路に何らかの通過障害があることを意味しております。その原因のひとつとして癌がありますが、その中でも下咽頭癌が疑われます。
下咽頭癌 は比較的知名度の低い癌ですが、病態や治療について詳しく説明します。
飲食物が飲み込みにくい等の症状は下咽頭癌の可能性
下咽頭とはどこにあるのか
咽頭は構造上、上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれます。下咽頭は中咽頭以降から食道接合部までの器官であり、主に飲食物を食道に通過させる働きがあります。
中咽頭の下端はこの下咽頭と空気を入れる喉頭との分岐点であり、嚥下運動と呼ばれる「飲み込む」運動により、空気の流入口である喉頭を閉じることで下咽頭に飲食物が流れ込む仕組みです。
下咽頭癌の症状について
下咽頭癌は嚥下運動に伴い飲食物を通過させる器官であることから、嚥下運動時に症状が出現します。初期症状として嚥下障害があります。これは飲食物がつかえたり飲み込みにくい症状のことをいいます。また、嚥下障害以外にもアルコールなどの刺激物を摂取した時に嚥下痛があります。
下咽頭癌の特徴として、下咽頭と耳の神経がつながっていることから、耳への放散痛が出現します。嚥下時に耳が痛むことは、耳の病気ではなく、下咽頭癌の可能性が高いことがいえます。
もうひとつの特徴として、下咽頭は頸部(首)に位置することから、頸部のリンパ節に囲まれている器官でもあります。よって、癌を形成すると早期に頸部リンパ節に転移することが多く、頸部に腫瘤を認めることが多いです。
下咽頭癌の特徴
下咽頭癌は嗜好との関連が強く、因果関係が深いものとして、喫煙や飲酒が挙げられます。年齢は50歳から60歳代に好発し、女性と比較して男性約5倍と男性に多い癌です。
下咽頭癌を形成するのは主に3つに分けられ、梨状陥凹部癌、輪状軟骨後部癌、後壁部癌とあり、梨状陥凹部癌は男性に多く、輪状軟骨後部癌は女性に多い特徴があります。
下咽頭癌はある程度癌が大きくならないと症状が自覚できないため、初期症状に乏しい癌のひとつです。わりと早期に頸部リンパ節に転移するため、初診時には癌が進行していることが多いです。また、下咽頭と食道は連続していることから、食道癌を併発していることもあります。
下咽頭癌の検査
まずは早期リンパ節転移が多いことから、頸部の腫れをチェックします。癌自体の検査は、喉頭鏡や内視鏡で肉眼的な所見を観察します。癌が疑われる所見があれば、引き続き咽頭組織を採取して病理顕微鏡検査を行います。
病理顕微鏡検査は、採取した組織に癌細胞があるかどうかを検査するもので、この検査結果で診断が確定します。
下咽頭癌が確定した後は、転移の状況を確認するためにCT検査やMRI検査を行います。他に下咽頭は食道に通じていることから、内視鏡検査で食道やその先の胃まで癌を確認していきます。
下咽頭癌の治療と予後
初診時の大半は頸部リンパ節転移を認めることから、基本的に外科手術治療が必要となります。下咽頭癌の性質上、頸部リンパ節以外にも下咽頭の隣にある喉頭に浸潤していることが多いため、下咽頭と喉頭、そして食道の一部を切除することになります。
下咽頭を切除しますが、腸や皮膚などの組織を代用して下咽頭を再建します。これにより飲食は可能となりますが、喉頭を切除すると発声ができなくなり、声を失うことになります。
声を失うことはつらいことですが、現在では喉頭がなくとも発声ができる器具やリハビリがありますので、コミュニケーションは可能となります。
外科的治療以外に放射線療法や化学療法があります。特に梨状陥凹部癌は放射線の感受性が高いこともあり、効果が期待できます。
ただ、放射線療法は転移が明らかではない場合か、外科的治療の適応がない場合に行いますので、通常は外科的治療の前後に放射線療法を行う場合が多いです。
化学療法は浸潤や転移が明らかな場合に行います。下咽頭癌は転移が多い癌であるため、化学療法の頻度は多いです。外科的治療や放射線療法と併用され、化学療法を単独で行うことは滅多にありません。
このような下咽頭癌の治療を行う上で必要なのは癌のステージですが、分類上ではリンパ節の転移が認められる場合でステージⅢ若しくはⅣとなり、5年生存率はⅢで約60%、Ⅳで約40%と非常に予後が悪い結果となっております。
極めて悪性の強い癌であることから、嗜好の週間や嚥下の違和感があった場合は、早急に医療機関で検査を行うことが重要となります。
まとめ
飲食物が飲み込みにくい等の症状は下咽頭癌の可能性
下咽頭とはどこにあるのか
下咽頭癌の症状について
下咽頭癌の特徴
下咽頭癌の検査
下咽頭癌の治療と予後