尿路感染症とは腎臓から尿管、膀胱、尿道口にかけての尿路に病原体が生着して起こる感染症のことです。小児や女性、高齢者に起こりやすい病気です。今回は 尿路感染症 の ガイドライン (診療指針や標準治療)についてご説明します。
尿路感染症の症状とガイドライン
尿路感染症の病態
尿路感染症は経過から急性と慢性、基礎疾患の有無から単純性と複雑性に分けられます。さらに感染部位を上部尿路(腎盂腎炎)と下部尿路(膀胱炎)と分けて、これらを組み合わせて疾患名となります。単純性か複雑性かで治療が大きく変わってきます。
単純性尿路感染症は、細菌が尿道から逆行感染することで発症します。グラム陰性桿菌が多く、全体の70%を大腸菌が占めます。そのため大腸菌をターゲットとした抗菌薬が使用されます。
複雑性尿路感染症は、尿路に基礎疾患がある患者の尿路感染症です。単純性尿路感染症と比べて大腸菌が減少し、腸球菌やブドウ球菌などのグラム陽性球菌や緑膿菌などの弱毒菌が増加します。尿道カテーテルが留置されている場合では、さらにその傾向が強くなります。
基礎疾患がある限り抗菌薬の投与のみでは再感染や再燃のリスクが高く、耐性菌を予防するためにも基礎疾患を解決することが治療の基本となります。
急性単純性膀胱炎
排尿痛、頻尿、尿混濁の3大症状に加え、血尿や残尿感、尿意切迫感、尿失禁などの症状があらわれることがあります。ほとんどの場合、発熱は伴いません。
女性に多く、大腸菌をターゲットとする抗菌薬が用いられます。通常は3日間の抗生物質の内服で効果がみられます。感染症が長引く場合は抗生物質を7~10日服用します。
閉経後の女性は再発率が高いですが、抜本的な解決策はありません。治療困難な場合は基礎疾患がないか注意が必要です。アルコールや刺激の強い食事を控えて水分摂取を心がけ、抗菌剤を正しく内服することで比較的簡単に治癒します。
急性単純性腎盂腎炎
女性に多く、急な発熱と感染側の腰背部痛で発症します。吐き気や嘔吐に加え、頻尿や排尿時痛などの膀胱炎症状もみられることがあります。
高齢者では腎盂腎炎が発症しても尿路の異常が疑われるような症状がないこともあります。起炎菌は大腸菌が70%です。腎排泄型の薬剤が使用されます。
軽症ならば外来治療で内服薬を7~14日間、重症ならば入院で点滴治療の後、通常は内服薬に切り替えて合わせて14日間の抗生物質治療が行われます。
切り替えのタイミングは解熱や腰背部痛などの症状が治まったころが目安とされます。十分な休息をとり、適切な抗生物質の点滴や内服で治癒します。
複雑性膀胱炎
中高年の男女にみられ、前立腺肥大症、前立腺癌、神経因性膀胱、膀胱癌、膀胱下垂などの基礎疾患があります。頻尿や残尿感、排尿痛などの症状がありますが、急性膀胱炎よりも軽い傾向で無症状の人もいます。
基礎疾患には解剖学的、機能的な尿路異常だけでなく糖尿病やステロイド、抗がん剤投与中などの全身性感染防御機能の低下状態も含まれます。
大腸菌の他に緑膿菌や腸球菌などが起炎菌で多岐にわたります。尿路や全身の基礎疾患の正確な把握と、適切な尿路管理が治療の主体となります。
抗菌スペクトルが広く抗菌力の強い薬剤が7~14日間投与され、経口薬で治療困難な場合は注射薬が使われることもあります。
初回抗菌薬投与前に尿培養検査を行い、原因菌の薬剤感受性を調べておくことが推奨されています。その結果に基づいて、より狭域スペクトルの薬剤を選択することが必要です。
再発や再燃が多く、長期投与は耐性菌の出現に繋がるため、基礎疾患によっては急な症状悪化がない限りは投薬治療しないこともあります。
複雑性腎盂腎炎
尿の流れが悪くなるような基礎疾患があります。水腎症、尿路結石症、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流現象、腎盂尿管癌などがあげられます。
軽度の腰痛や全身倦怠感や微熱などがみられますが、無症状の場合もあります。細菌が血中に放出されて、時には反対側の腎臓や体内の別の部位にも感染症を起こすこともあります。次第に腎機能が低下して慢性腎不全になることもあるため注意が必要です。
原因菌が多岐にわたるため、尿培検査は必須となります。抗菌剤や抗生剤の内服、点滴などの治療が行われますが難治性です。
基礎疾患がある限り再発、再燃を繰り返します。慢性膀胱炎の場合と同様に、症状の急な悪化がなければ経過観察のまま投薬しないこともあります。
まとめ
尿路感染症の症状とガイドライン
尿路感染症の病態
急性単純性膀胱炎
急性単純性腎盂腎炎
複雑性膀胱炎