腹部大動脈瘤 はその名のとおり腹部の大動脈が拡張してコブ状に変化する病気です。腹痛などの症状が出る人もいますが、ほとんどの場合は破裂するまで無症状です。破裂すると腹部に激痛を自覚し、さらに大出血を起こして死亡します。
瘤が大きくなると破裂するリスクが増加します。治療として最近ではスンテントグラフト内挿術と呼ばれる血管内手術が注目されています。
腹部大動脈瘤とはどんな病気?
腹部大動脈瘤とは
大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)は身体の中心を走る大動脈の弱くなった血管壁が異常に伸展し、その結果大動脈の一部が拡張してコブのように膨らむ病気です。
血管をわぎりにして見たときに360°すべての方向に拡張するもの(全周性(ぜんしゅうせい)と呼びます)と限局的に拡張するもの(例えば0時~5時方向が拡張、他は拡張なし)とがあります。
コブができる部位により動脈瘤は大きく3つに分類されています。
頭に近い方からあげていくと1つめ胸部大動脈瘤は横隔膜より上に瘤が存在するもので、大動脈瘤全体の約1/3を占めます。胸部大動脈瘤はさらに上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、大動脈弁輪部拡張症、下行大動脈瘤に分けられています。
2番目が横隔膜の上下にわたって瘤が存在する胸腹部大動脈瘤で、頻度は少ないです。
最後が腹部大動脈瘤で横隔膜より下に瘤が存在しています。大動脈瘤全体の約2/3が腹部大動脈瘤です。
腹部大動脈瘤はさらに腎動脈にかかる腎動脈上と、腎動脈にかからない腎動脈下の2つに分けられており、腎動脈下のものが約95%と大多数を占めています。
この項では大動脈瘤のうち腹部大動脈瘤について説明します。余談ですが医療関係者はしばしばこの腹部大動脈のことを英語表記であるAbdominal aortic aneurythmの頭文字AAAから“トリプル・エー”、もしくは“スリー・エー”と呼んでいます。
腹部大動脈瘤の症状
瘤が小さいと基本的に症状は出ません。ちなみに“大動脈瘤”の定義は大動脈が正常径の1.5倍以上に拡大した状態とされています。
腹部大動脈瘤が大きくなると腹部の違和感や腹痛を自覚する、あるいは腹部の表面から拍動する腫瘤(しゅりゅう)を触れるなどの症状が出る場合があります。
さらに腹部大動脈瘤のために下肢の血流が阻害されると、間歇性跛行(かんけつせいはこう。詳細は閉塞性動脈硬化症の項をごらんください)や下肢しびれ感が出現します。
しかしながら治療が必要なほど瘤が大きくなっていても、破裂するまでは全く症状がない人がほとんどです。さらに拡大した腹部大動脈瘤は破裂します。腹部大動脈瘤が破裂すると腹部に激痛を感じるとともに、出血をきたします。
大動脈はからだの中でもっとも太く、かつ血流が多い血管ですから、通常は大出血となります。その結果、出血性ショックとなり死に至ることもまれではありません。したがって腹部大動脈瘤破裂は突然死の一因となっています。
動脈瘤破裂の危険性
全ての動脈瘤は大きくなればなるほど破裂する危険性が高くなることが知られています。そのために国際的なガイドラインでは、腹部大動脈瘤では最大短径5.5cm(女性5.0cm)、胸部大動脈瘤では5.5~6.0cmが手術の適応とされています。
一方で、最大短径が4.0cm未満の動脈瘤は破裂のリスクが小さいためにほとんどの場合は手術の対象にはなりません。この場合は血圧コントロール(血圧が高いと動脈瘤が大きくなりやすくなります)や禁煙などの治療と、CTやMRI画像などで経過観察が行われます。
大動脈瘤は年間に約2~3mmずつ拡大することが通常ですが、1年で10mm、あるいは半年で5mmなど急速に大きくなっている場合は手術が検討されます。
さらに大動脈瘤の形が紡錘状ではなく、嚢状である場合や動脈瘤の一部が突出している場合、腹痛や背部痛など症状がある場合、動脈瘤に細菌が感染した感染性動脈瘤の場合などにでは破裂、径が上記ほどには拡大していなくても手術療法にふみきる場合があります。
腹部大動脈瘤の治療
従来は腹部をメスで開けて瘤ができた大動脈を人工血管と取り替える人工血管置換術(じんこうけっかんちかんじゅつ)が行われていました。
しかし最近になってスンテントグラフト内挿術と呼ばれる血管内手術が行われるようになり、徐々に症例数が増加しています。
これはふとももの動脈(大腿動脈)から挿入したステントグラフトとよばれる補強材を瘤ができている血管に進め、その部分を内側から補強する手術で、全身への負担が開腹手術よりも少ないために、高齢者や心臓・肺などに持病がある人などこれまでは手術が難しいとされていた人に対しても治療が可能となる場合もでてきています。
まとめ
腹部大動脈瘤とはどんな病気?
腹部大動脈瘤とは
腹部大動脈瘤の症状
動脈瘤破裂の危険性
腹部大動脈瘤の治療