「 肝硬変により生じた腹水の治療(前編)」では、肝硬変より生じた腹水についてご説明いたしました。後編では、コントロールができない 腹水 に対しての 治療 方法をご紹介いたします。
また、下記する処置ができない場合、肝移植が行われることもあります。
肝硬変により生じた腹水の治療(後編)
利尿薬でコントロールできない腹水
最大量まで利尿薬を使用しても腹水がコントロールできない症例(利尿薬抵抗例)や、血圧低下などの副作用のためにそれ以上利尿薬を増量することができないケース(利尿薬不耐例)では、腹水穿刺排液(ふくすいせんしはいえき)や腹水濾過濃縮再静注法(ふくすいろかのうしゅくさいじょうちゅうほう)が行われます。
腹水穿刺排液は腹腔内に太い針を刺して、たまっている腹水を抜く処置のことです。たいていの場合、同時に上述のアルブミン製剤を投与します。ほぼ確実に腹水を抜くことが可能ですが、多くの場合、ほどなくして腹水がもとどおり貯留してしまいます。
腹水濾過濃縮再静注法は腹水穿刺で抜いた廃液を濃縮し、腹水中に含まれているアルブミンなどを自分の血管に注射して戻す方法です。つまり再利用しているわけです。
アルブミン製剤の節減につながるという大きな利点がありますが、腹腔内感染症が疑われる場合は、病原体も一緒に血管に入れてしまうことになるので、行うことができません。
それでもコントロールできない腹水
腹腔-静脈シャント(P-Vシャント)をつくる場合があります。これは腹腔と頸静脈(首にある太い静脈です)を逆流防止弁のついたシャントと呼ばれる管でつなぎ、自動的に腹水を頸静脈に注入する方法です。
腹水にともなう症状は緩和されますが、たまった水を体の中でぐるぐると循環させているだけですから、予後改善効果はありません。
腹腔-静脈シャントは血清総ビリルビンが10mg/dl以上、呼吸不全、DIC(播種性血管内凝固症候群)、SBP(特発性細菌性腹膜炎)、消化管出血、破裂の危険がある未治療の静脈瘤をともなう肝硬変に適応があります。
また経頸静脈肝内門脈大循環(TIPS:trans juglar intarahepatic portosystemic shunt)を造設することもあります。これは門脈と大静脈を管でつないで、門脈圧を低下させる方法です。
難治性の腹水に対して有効ですが、肝性脳症が増加する欠点があります。経頸静脈肝内門脈大循環は70歳未満で、Child-Pugh分類(チャイルド・ビュー分類。肝硬変の程度を表しますが、肝癌治療の目安としても使用されています)11以下の肝硬変が適応となります。
さらにこれらの処置ができない場合、肝移植が行われることもあります。
まとめ
肝硬変により生じた腹水の治療(後編)
利尿薬でコントロールできない腹水
それでもコントロールできない腹水