体液が過剰に腹腔内にたまる腹水はさまざまな病気が原因となりますが、大きく漏出性腹水と滲出性腹水に分類されます。両者は外観、蛋白濃度、血液とのアルブミン濃度差などによって区別することができます。
漏出性腹水は肝硬変、低栄養、心不全などの病気、滲出性腹水は悪性腫瘍(癌)や腹膜炎、急性膵炎などの疾患で生じます。しかし圧倒的に多い 腹水 の 原因 疾患は肝硬変と悪性腫瘍です。
腹水の原因となる病気
腹水とは
腹水はさまざまな原因により体液が正常範囲を超えて腹腔内にたまった状態です(生理的範囲といって正常な人でも少量の体液(30~40mlくらい)は存在します)。腹水の量が増加するにともなって腹部が次第に膨満します。
腹水の原因となる病気は多彩で、1992年のRunyonらの報告では腹水の原因として肝硬変が圧倒的に多く81%を占め、次いで悪性腫瘍(癌。さまざまな部位に発生した癌や転移した病変(腹膜転移など)が腹水をもたらします。))の10%、以下心不全3%、結核2%、透析1%、膵臓疾患1%、そしてその他の病気が2%であったと記載されています(Ann Intern Med)。肝硬変と悪性腫瘍だけでも9割となるわけです。
この項では腹水を生じる病気についてその概略を説明します。なお肝硬変についての詳細は別項を参照してください。
漏出性腹水と滲出性腹水
腹水は性状から非炎症性の漏出液(ろうしゅつえき)と炎症性や腫瘍性の滲出液(しんしゅつえき)に分類することができます。
腹水の外観は漏出液では透明、淡黄色であることが多いのに対して、滲出液では混濁し、血性や膿性、あるいは乳び性とよばれる外観を示します。
腹水の蛋白濃度は漏出液で高く、滲出液では低い傾向があります。
血液(血清)と腹水のアルブミン濃度差(SAAG:serum-ascites albumin gradient)は漏出液では高く、逆に滲出液では低くなります。
Rivalta反応(リバルタはんのう。酢酸を腹水に添加した際に白色の蛋白沈殿ができる反応)は漏出液では陰性、滲出では陽性となります。これらに加えて腹水の比重や細胞成分、腹水と血清のLDH比などが漏出液と滲出液とでは異なります。実際の医療現場でもたまった腹水を抜いて(腹水穿刺(ふくすいせんし)と呼ばれる手技です)、その性状を調べ、漏出液か滲出液かを判断して腹水の原因を推定することがよくあります。
漏出性腹水や滲出性腹水を生じる病気を以下に記載しますが、漏出性では肝硬変によるもの、滲出性では癌性腹膜炎によるものが最も多い原因疾患です。
漏出性腹水の発症する機序とその原因疾患
漏出性腹水はさまざまな機序によって血液中の水分が腹腔内に漏れ出すことによって生じます。言い換えると上澄みの水が肝臓や血管から出ていって腹腔内にたまるイメージです(そのため漏出性腹水の外観は上記のようになります)。
おもな機序には門脈圧亢進(門脈と呼ばれる血管の内圧が異常に上昇する状態。
原因となる病気には肝硬変、右心不全などがあります)、膠質(こうしつ)浸透圧の低下(血液中のアルブミン濃度が低下するために血管内の浸透圧が低下する状態です。原因疾患として肝硬変、低栄養、ネフローゼ症候群などがあります)、有効循環血漿量の低下(原因疾患として肝硬変、心不全、甲状腺機能低下症などがあります)の3つがありますが、門脈圧亢進によるものが最多です。
また肝硬変が3つの機序全てに関係していることに注目してください。
滲出性腹水の発症する機序とその原因疾患
滲出性腹水は血管透過性の亢進やリンパ流がうっ滞することで、蛋白質や細胞成分を多く含んだ血漿成分が腹腔内に滲み出すことによって生じます。
違う表現をすると、濁った水が血管やリンパ管などから出ていき腹腔内に貯留するイメージです(そのため滲出性腹水の外観は上記のようになります)。
血管透過性の低下は細菌感染や悪性腫瘍などによる炎症が原因となって生じ、腹膜炎(癌性腹膜炎を含む)や急性膵炎などの病気が原因となります。
リンパ流のうっ滞は、主として悪性腫瘍のためにリンパ管(リンパ液が流れている管)が閉塞することで起こります。
ただし悪性腫瘍ではこれらリンパ流うっ滞や癌性腹膜炎による血管透過性亢進だけでなく、低栄養や門脈圧亢進など漏出性腹水の機序とも複雑に関連して腹水を生じる場合があります。
まとめ
腹水の原因となる病気
腹水とは
漏出性腹水と滲出性腹水
漏出性腹水の発症する機序とその原因疾患
滲出性腹水の発症する機序とその原因疾患