咳嗽 とは “せき”を表す医学用語です。その持続期間は原因となる病気の推定に有用で、急性、遷延性、慢性咳嗽に分類されています。急性咳嗽はかぜなどの呼吸器感染症が原因となることが多く、遷延性や慢性咳嗽では呼吸器感染症の割合が減ります。
また、痰の有無によって湿性咳嗽と乾性咳嗽にも分けることができます。さらに気管支喘息や気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎などの病気では咳嗽が起こりやすい時間帯が存在します。
咳嗽の分類と咳嗽を起こす病気
持続期間による咳嗽の分類
咳嗽(がいそう)とはいわゆる“せき”を表す医学用語です。咳嗽の持続期間は原因疾患を推定する上で有用とされています。
わが国の「咳嗽に関するガイドライン第2版」(メディカルレビュー社,大阪,2012)ではその持続期間によって急性咳嗽(3週間未満で治るもの)、遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう。3週間以上持続して8週未満で治まるもの。以前は亜急性(あきゅうせい)と呼ばれていました)、慢性咳嗽(8週間以上続くもの)に分類されています。
おおまかに急性が70~80%、遷延性が20~50%、そして慢性咳嗽が10%くらいの割合です。一般的には急性咳嗽は呼吸器感染症(ウイルス感染や細菌感染など)が原因となることが多く、かぜ症候群(いわゆるカゼです)、気管支炎、細菌性肺炎(いわゆる“肺炎”です)などがあります。
感染症ではない呼吸器の病気である気管支喘息、胸膜炎、肺塞栓症も急性咳嗽を起こします。うっ血性心不全、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎はいずれも呼吸器の病気ではありませんが、やはり急性咳嗽の原因となることがあります。
これに対して、慢性咳嗽の場合は感染症ではない病気が原因である場合が多くなります。別の言い方をすると長引く咳である場合に見逃したくない、こわい病気である可能性が増加します(こわくない病気である場合もあります)。
肺癌、COPD(慢性閉塞性肺疾患。以前肺気腫と呼ばれていた病気も含まれます)、肺結核、間質性肺炎(上記の細菌性肺炎とは異なる肺炎です)、咳喘息、アトピー咳嗽、後鼻漏(こうびろう)症候群、副鼻腔気管支症候群、薬剤性咳嗽、食道胃逆流症(GERD)などがおもな病気です。
長期間持続する咳については【咳が止まらないときに考えるべきこわい病気】の項で詳しく説明しています。
喀痰による咳嗽の分類
痰をともなう咳嗽を湿性咳嗽(しっせいがいそう)、痰をともなわない咳嗽(いわゆる“からぜき”)を乾性咳嗽と呼びます。湿性咳嗽はからだが痰を出そうとするために生じる咳で、気道内に病変を生じる病気で起こります。
急性では細菌性肺炎、気管支炎、副鼻腔炎、胸膜炎などです。持続する湿性咳嗽、すなわち慢性の場合は肺結核、肺癌、COPD、気管支拡張症(この病気はとくに大量の痰をともなうことで有名です。痰に血が混じる場合もあります)、心不全(心不全についての詳細は他項をごらんください)による肺水腫などが該当します。
これに対して乾性咳嗽は気道上皮などにある咳受容器(脳(正確には延髄に存在する咳中枢)に“咳を出してほしい”と連絡する部分)が刺激されるために起こる咳で、痰は出ないか、少量のみとなります。
急性では気胸、肺塞栓症、過敏性肺炎、慢性では咳喘息、胃食道逆流症、間質性肺炎、薬剤性咳嗽などがあります。ただしこれらは一般論で、当てはまらない場合も少なくありません。たとえば“痰がない咳だから肺癌ではない”と自己判断するのは危険です。
咳嗽が起こりやすい時間帯
病気によっては咳嗽が起こりやすい時間帯が存在します。気管支喘息の咳嗽や発作は朝方に起こりやすい特徴があります。
したがって夕方や眠る前に喘息発作の徴候があって病院に行くかどうかを迷っている人は、翌日の早朝にさらにつらくなる可能性が高いので、早めに医療機関を受診したほうがよいかもしれません。
気管支拡張症やびまん性汎細気管支炎(慢性副鼻腔炎を高頻度に合併することが知られている病気です。東アジアに多く、欧米にはほとんど存在しないとされており、何らかの遺伝的な要因があるものと考えられています)の咳嗽は起床時、心不全による肺水腫の咳嗽は横になっている時(臥床時)に多いことが知られています。
まとめ
咳嗽の分類と咳嗽を起こす病気
持続期間による咳嗽の分類
喀痰による咳嗽の分類
咳嗽が起こりやすい時間帯