日本が急速に高齢化社会になるにつれて肺炎を発症する患者さんは増加し、それとともに肺炎で死亡される方も多くなってきています。肺炎は外来で治療する場合と、入院して治療する場合とがあります。
ここでは 肺炎 になって医療機関を受診したときに 入院 するかどうかを検討する目安について説明します。
肺炎で入院する目安
肺炎とは
肺炎とは何らかの病原微生物が肺に侵入して、急性の炎症を来たした状態のことです(成人市中肺炎診療ガイドライン【ポケット版】(2005年、日本呼吸器学会)より引用。以下ガイドラインと略します)。
肺炎は市中肺炎と医療・介護関連肺炎(NHCAP)の2つに大きく分類されます。ここでは病院外で日常生活をしていた人に発症した肺炎である市中肺炎に限定して話を進めていきます。
介護施設や長期療養施設で暮らしている方の肺炎は医療・介護関連肺炎に該当しますので注意してください。
A-DROPシステム
A-DROPシステムは上記のガイドラインで使用されている指標で、①Age(年齢)、②Dehaydration(脱水)、③Respiration(呼吸状態)、④Orientation(意識障害)、⑤Pressure(血圧)の頭文字を並べた造語です。
具体的には①男性70歳以上・女性75歳以上、②BUNという脱水に関連した採血検査数値が21mg/dl以上もしくは脱水所見がある、③体に酸素が満ちている指標であるSpO2が90%以下もしくはPaO2が60Torr以下、④意識障害あり、そして⑤収縮期血圧が90mmHg以下、という5つの項目が設定されています。
ガイドラインでは各項目を1点として合計点数が0点なら外来治療、1ないし2点であれば入院治療(短期を含む)が望ましいが外来治療でも可、3点であれば入院治療、4ないし5点であればICU(集中治療室)入院が勧められています。
言い換えればA-DROPシステムの点数は肺炎の重症度を表しており、合計点数が0点は軽症、1~2点は中等症、3点は重症、4~5点は超重症の肺炎であるということもできます。
以下のアメリカの基準と比べると、日本に指標は非常にシンプルで使いやすいことが特徴ですが、悪い言い方をすればおおざっぱな面もあります。
アメリカ感染症学会の危険度算出システム
アメリカ感染症学会(IDSA)の市中肺炎ガイドラインでも肺炎の危険度(すなわち重症度)に応じて推奨される治療の場を決定するようなシステムがとられています。
アメリカ感染症学会の危険度算出システムは19項目もあり、よりきめ細かな評価が可能であるというメリットがありますが、特に多忙を極める救急の現場などでは煩雑であるというデメリットもあります。
A-DROPシステムにはない特徴として、肺炎を起こした患者さんがもともと有している病気(基礎疾患といいます。アメリカ感染症学会のガイドラインでは合併症と表現されています)に応じて重症度のポイントを増やすようにしていることです。
具体的には悪性腫瘍(がん)、肝疾患(肝硬変など)、うっ血性心不全、脳血管障害(いわゆる脳卒中です)、腎疾患(血液透析や腹膜透析をしている人なそ)が挙げられています。
言い換えれば、こういった基礎疾患をもともと有している人は、同じ程度の肺炎を起こしても、重症化しやすい、なかなか治らない、あるいはもともとの基礎疾患が悪化して入院が長引く、といったことになりやすいと言えます。
なお詳細は割愛しますが、素直にアメリカ感染症学会の危険度算出システムに従うと男性70歳以上、女性80歳以上の肺炎は原則入院での治療と判定されます。
実際の医療現場ではどうか
実際の医療現場でもA-DROPシステムや、場合によってはアメリカ感染症学会の危険度算出システムを参考にしているのですが、基本的には①呼吸状態が悪く酸素投与が必要(これは上記のいずれのシステムにも含まれている項目です)、②自分の口から食事や水分を十分にとることができない、そして③外来で治療を継続することが困難(1人暮らし、認知症、精神疾患、アルコール依存症などを有している)、のどれかに当てはまれば入院を考慮されることが多いのが実際です。
もちろん肺炎を起こしている患者さんご本人やご家族と相談した上で入院するかしないかは決定されますし、外来通院で治療を開始したが経過が悪く入院治療に切り替わった、という場合も珍しくはありません。
まとめ
肺炎で入院する目安
肺炎とは
A-DROPシステム
アメリカ感染症学会の危険度算出システム
実際の医療現場ではどうか