肺炎が疑われるとしばしば胸部レントゲンが撮影されます。 レントゲン は 肺炎 の診断に有用であり、その重症度などについても情報が得られます。しかし見逃されやすい領域があり、胸部レントゲンだけで肺炎を完全に否定することはできません。
胸部CTの方が肺炎所見の検出や他疾患との鑑別には優れていますが、コストや被曝量などの欠点もあります。また胸部レントゲンやCTでは描出できない肺炎があることも知られています。
胸部レントゲンだけで肺炎を否定することはできません
肺炎診断に対する胸部レントゲン
肺炎が疑われた場合、しばしば胸部レントゲンを撮影し、診断が確定されます。ただし必ずレントゲン検査が必要というわけではなく、実際にアメリカ内科学会の指針(Ann Intern Med,2001)でも身体所見(胸部の聴診や呼吸状態など)に異常がなければ撮影しなくてもよいとされています。
逆に“身体所見に異常がある”場合に胸部レントゲンを撮影する理由としては、肺炎の重症度(左右両肺に肺炎を生じているのか、片側だけなのか、肺のほぼ全域なのか半分程度なのかなど)やタイプ(市中肺炎(一般的な肺炎です)、間質性肺炎など)をある程度判断することができること、また特に高齢者で鑑別が必要となる肺結核(この病気については他項で詳しく説明しています)についても情報が得られることなどがあげられます。
胸部レントゲンの限界
胸部レントゲンで肺炎を診断する場合、肺が横隔膜や心臓、肋骨と重なる部分の異常所見はどうしても見逃しが増えてしまいます。ちなみにこれは肺炎に限ったことではなく、肺癌のスクリーニング検査としてのレントゲン検査でも同じことが言えます。
1997年に長置は日医放会誌で胸部レントゲンでは異常を指摘できずに胸部CTで市中肺炎と診断された症例が8.2%存在したと報告しています。したがって胸部レントゲン検査だけで肺炎を否定することはできません。
また肺炎のように見える肺胞出血や肺水腫など肺炎とは異なる病気を画像のみで診断するためには、胸部CT(特に高分解能CT(HRCT)が有用とされています)が必要となります。
ただしCT検査は開業医さんや診療所ではできない場合が多いこと、検査費用がレントゲンよりも高価になること、レントゲンよりも放射線の被曝量が多いことなどの欠点があります。
CT検査を撮影するタイミング
一般的には、患者さんの症状や診察所見から肺炎が疑われるにもかかわらず、胸部レントゲンで肺炎の所見がはっきりしない場合に、胸部CTが撮影されます。ただし、胸部CTを撮影するタイミングに定説はなく、医師によってまちまちであることが現状です。
2007年の日本呼吸器学会による「成人市中肺炎ガイドライン」でも胸部CT撮影のタイミングは明確にされていません。反対に胸部レントゲンで明確な肺炎像を認める場合には、胸部CTを追加で撮影する意義は乏しいといえるかもしれません。
肺炎の治療効果判定と胸部レントゲン
肺炎患者さん、特に入院している肺炎患者さんや、そのご家族で治療を開始してからのレントゲン所見の変化を気にされる方が少なからずいます。
しかし、胸部レントゲンでの肺炎所見の改善は臨床的な改善よりも遅れることが多く、2週間程度経過して50%がやっと軽快する程度であるとされています。したがって、肺炎の臨床的な所見が悪化していなければ、しょっちゅう胸部レントゲンを撮影する必要はないと言えるでしょう。
むしろ被曝するだけ損かもしれません。実際に2009年の英国胸部疾患学会のガイドラインでは、臨床的な改善がみられれば胸部レントゲンでの経過観察は必要なしとされています。
ただし上述の日本のガイドラインには、治療効果の判定の時期として7日後までに胸部レントゲンを撮影してもよいと記載されています。したがって撮影するのが間違いというわけではありません。
ちなみに肺炎の“臨床的な改善”の目安としては、呼吸状態の改善(例えば入院時には酸素吸入が必要であったのにその後不要になった、など)や喀痰量の減少などが有用とされています。熱の有無ではないことを知っておくとよいでしょう(高齢者では発熱がない肺炎も珍しくありません)。
補足
肺炎には一般的な肺炎である市中肺炎以外にも院内肺炎や間質性肺炎などがあります。これらの場合には明らかな臨床症状の悪化がない場合でも、定期的な胸部レントゲンでのフォローアップが必要になる場合があります。
また抗がん剤などによって免疫力が著しく低下している人に生じた肺炎では胸部レントゲンはもちろん、胸部CTでも肺炎所見をとらえることができない場合があることが知られています。
まとめ
胸部レントゲンだけで肺炎を否定することはできません
肺炎診断に対する胸部レントゲン
胸部レントゲンの限界
CT検査を撮影するタイミング
肺炎の治療効果判定と胸部レントゲン
補足