誤嚥性肺炎は特に高齢者に多い 肺炎 です。誤嚥には顕性誤嚥と不顕性誤嚥とがありますが、誤嚥性肺炎は特に夜間睡眠中の不顕性誤嚥と深く関連しています。
衰えた嚥下機能を完全に回復させることはできませんが、少しでも誤嚥性肺炎を予防する方法として、胃食道逆流を 予防 するために食後は座位にすることや、口の中の清潔保持が有効とされています。
高齢者に多い誤嚥性肺炎の予防
高齢者と誤嚥性肺炎
誤嚥は本来であれば口→食道→胃へと進む食物や唾液が、口→気道→肺に入ってしまうことです。ご存じのように日本は急激に高齢化社会となっていますが、高齢になるとどうしても嚥下機能(食物や唾液を飲み込む能力)が低下していくために、誤嚥性肺炎も増加していきます。
したがって高齢者の肺炎、特に入院を要する肺炎の大半は誤嚥性肺炎(aspiration pneuminia)であると考えられています。60歳代で入院した肺炎のうち誤嚥性肺炎はおよそ50%であったのに対して、80歳以上では90%以上が誤嚥性肺炎であったとTeramotoらは報告しています(J Am Geriatr Soc. 2008)。
近年日本では肺炎が脳卒中を追い抜いて全死亡原因の第3位となっていますが、高齢者の増加とそれに伴う誤嚥性肺炎の増加が大きな原因であると考えられています。
なお先日厚生労働省から発表された「平成27年(2015)人口動態統計の年間推計」では肺炎の死亡数は12万3000人(1位のがん(悪性新生物)37万人、2位の心疾患19万9000人、4位脳血管疾患11万4000人)と前年の肺炎死亡数11万9650人からさらに増加しています。
顕性誤嚥と不顕性誤嚥
誤嚥には食物や飲み物にむせて誤嚥する顕性誤嚥と、唾液など口の中の分泌物(唾液には口の中の雑菌がたくさん含まれています)を誤嚥する不顕性誤嚥とがあります。
したがって不顕性誤嚥は口からの食事を中止して点滴栄養や胃瘻(いろう)からの栄養としても起こる場合があります。
顕性誤嚥については食事を極力ゆっくりと長い時間をかけて食べる、介助者は無理に食事を口に押し込まない、きざみ食など個人個人にあった食事形態を工夫するなどの対策が考えられます。
しかし困ったことに肺炎発症は顕性誤嚥よりも不顕性誤嚥、特に夜間睡眠中に知らず知らずのうちに起こっている不顕性誤嚥が原因となっていることが多いのです。
高齢者の場合、衰えてしまった嚥下機能を完全に回復させることはできませんが、少しでも誤嚥性肺炎を予防させる方法として、胃食道逆流の物理的予防、口の中の清潔保持、薬剤などがあります。
以下に胃食道逆流の物理的予防と口の中の清潔保持について説明します。なお直接誤嚥を防ぐわけではありませんが、体調を悪化させないという観点から肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの予防接種も是非行っておくとよいでしょう。詳細は肺炎の予防接種の項をご覧ください。
胃食道逆流の物理的予防
胃の内容物(食物)や消化液が食道から口に向かって逆流すると潜在的に嚥下障害が悪化します。さらに酸(ご存じのように胃液は酸です)にさらされた気道はウイルス感染を起こしやすくなります。
この逆流を予防するために、一般的に寝たきりの状態にある高齢者では、食後約2時間の座位保持が推奨されています。
また胃内容物の量が多くなりすぎると誤嚥の発生頻度が増加する可能性が指摘されていますが、どれくらいのスピードで食事をとればよいのか、あるいは胃瘻に流動食を注入する理想的な速さは明確にはなっていません。
一方で腸の動きが悪くなると胃内容物の貯留時間の延長、胃食道逆流、誤嚥が生じやすくなります。その意味で排便コントロール、特に便秘の予防は大切なポイントです。
口の中の清潔保持
口の中を清潔に保つこと(口腔(こうくう)ケアと言います)は誤嚥性肺炎予防に有効です。
毎食後の5分間の歯磨き+週1回の専門職の介入で肺炎の発症・死亡が減少したという報告(Yoneyama Tら。J Am Geriatr Soc. 2002)や専門職による口腔ケアで肺炎の死亡率が3分の1に減少したという報告(Bassim CWら。J Am Geriatr Soc. 2008)があります。
最近では往診してもらえる歯科医も増えています。一度相談してみるとよいでしょう。また上述の不顕性誤嚥の問題がありますので、自分の口で食事をとっていない胃瘻や経鼻胃管(鼻からチューブを入れて胃に先端をおき流動食を入れる栄養方法です)をしている人にも口腔ケアは重要です。
まとめ
高齢者に多い誤嚥性肺炎の予防
高齢者と誤嚥性肺炎
顕性誤嚥と不顕性誤嚥
胃食道逆流の物理的予防
口の中の清潔保持