ハント症候群 とは水痘・帯状疱疹ウイルスが原因で起こる顔面神経麻痺の総称です。片側の顔面神経麻痺と同じ側に水疱などの皮膚症状を耳の中や周囲に合併するのが典型的な症状です。ただし顔面神経麻痺と皮膚症状の出現時期は必ずしも同時ではありません。
予後判定や治療の面からBell麻痺との鑑別が重要です。治療薬として抗ウイルス薬や副腎ステロイド薬が使用されます。
ハント症候群とはどんな病気?
ハント症候群とは
ハント症候群とは水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus、VZV)が原因で起こる顔面神経麻痺の総称です。
1907年にJames Ramsay Huntがこの病気の概年を提唱したことから、この名前が付けられています。したがってラムゼイ・ハント症候群(Ramsay Hunt症候群)も全く同じ病気を意味しています。
水痘・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスは水痘(いわゆる“みずほうそう”のことです)として私たちに初めて感染しますが、神経組織と相性がよく、特に神経節と呼ばれる場所に潜伏感染することがあります。
潜伏感染している水痘・帯状疱疹ウイルスは基本的には人体に害を及ぼすことはありませんが、加齢などの原因により私たちの免疫力が低下すると、活動を始めます(これを再活性化と呼びます)。
顔面神経には顔面などの筋肉を動かす運動繊維と呼ばれる成分と、味覚や痛みなどを感じて脳に伝える知覚繊維と呼ばれる成分とがあります。
顔面神経の膝神経節(しつしんけいせつ)と呼ばれる場所に潜伏感染していた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化すると顔面神経の知覚繊維が分布している耳などに水疱(みずぶくれ)などのブツブツができる、あるいは運動繊維が炎症に巻き込まれて顔面麻痺が起こる、といった症状が生じます。
ハント症候群の症状と特徴
20~30歳代と50~60歳代との2つのピークがあるとされています。これはハント症候群と同じ水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因で起こる皮膚帯状疱疹と同じ年齢分布です。
ハント症候群では顔面神経麻痺(急に顔面の片側が動かなくなり、表情がゆがんだようになる)と同じ側に生じる水疱、かさぶた、発赤などの皮膚症状(耳の周囲、耳の中、舌、口の中などに生じます)が典型的な症状です。
皮膚症状は痛みを伴うこともあります。顔面神経麻痺や皮膚症状以外にはめまい(約30%)、難聴・耳鳴り(約20%)を合併する人もいます。
髄膜炎や脳炎を発症するケースもありますが、まれです。ちなみにハント症候群は耳鼻咽喉科の先生、帯状疱疹は皮膚科の先生が担当することが多いようです。
ハント症候群とBell麻痺
急性の末梢性顔面神経麻痺を来す病気の原因としてはBell麻痺(詳細は他項を参照してください)が最も多く、次いで多いのがハント症候群です。
Bell麻痺の自然治癒率が70%程度もあるのに対して、ハント症候群の自然治癒率は50%にも達しないことが知られています。したがって顔面神経麻痺の治療や予後、あるいは治療という意味でハント症候群とBell麻痺を鑑別することが重要になります。
片側の顔面神経麻痺と同じ側の耳周囲の水疱を合併していればハント症候群と診断することはさほど難しくありません。厄介なのは、皮膚症状が顔面神経麻痺よりも遅れて出現してくる場合や、耳周囲には皮膚症状が出現せず、舌や口の中だけに出る場合があることです。
こういった場合、実際はハント症候群であるにもかかわらず、Bell麻痺として治療が開始されることもあるかもしれません。
したがってBell麻痺と言われた後に皮膚症状が出てきた場合はすぐに担当の先生に申し出るとよいでしょう。逆に皮膚症状が顔面神経麻痺よりも先に出現するケースもあります。
ハント症候群の治療
抗ウイルス薬や副腎ステロイド薬が点滴や内服で使用されます。
副腎ステロイド薬はしばしばBell麻痺に対しても用いられる薬剤ですが、抗ウイルス薬はBell麻痺には使われず、しかも発症後時間が経ちすぎると効果が期待できなくなってしまいます。
この点からもハント症候群とBell麻痺を区別することは大切です。
まとめ
ハント症候群とはどんな病気?
ハント症候群とは
ハント症候群の症状と特徴
ハント症候群とBell麻痺
ハント症候群の治療