「骨粗鬆症のガイドライン(前編)」では、先日発表された「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年度版」から骨粗鬆症の定義について御紹介しました。後編では、 ガイドライン から 骨粗鬆症 の診断基準、骨粗鬆症による骨折の危険因子とその評価、原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準を御紹介します。
骨粗鬆症のガイドライン(後編)
骨粗鬆症の診断基準
上記のように、骨密度のみでは骨折リスクを全て説明することはできません。しかし骨質については、現時点では確立された検査法がありません。そのため、ガイドラインの診断基準では骨密度だけではなく、これまでの骨折の有無を考慮するようになっています。
具体的には①脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)があるとき、もしくは②脆弱性骨折はないが、骨密度の指標であるYAM(若年成人平均値)が70%以下、もしくは-2.5SD以下のいずれかの場合に骨粗鬆症と診断されます。
骨密度は原則として腰椎で測定しますが、脊椎変形などで評価が難しい場合は、大腿近位部(太ももの付け根)で測定します。脆弱性骨折とは立った姿勢からの転倒やそれ以下の力、すなわちごく軽い力によって骨折してしまうことで、椎体(背骨です)や大腿骨近位部の骨折が典型的です。
骨粗鬆症による骨折の危険因子とその評価
WHOは骨密度や危険因子によって、個人の骨折リスクを評価し、薬物治療開始の基準として使用することを目的とした骨折リスク評価ツール(FRAXⓇと言います)を発表しています。これによって個人の将来10年間の骨折発生確率を算定することができます。
FRAXⓇに使用されている骨折の危険因子は年齢(年齢が上がるほど骨折リスクが上がる)、性(女性の方が骨折リスクが上がる)、大腿骨頚部骨密度、既存骨折、両親の大腿骨近位部骨折歴(両親に骨折経験があると自分も起こしやすい)、喫煙、飲酒、ステロイド薬使用、関節リウマチ、続発性骨粗鬆症です。
WHOもこれまでの骨折の有無を重要視していることがわかります。ガイドラインでも下記のようにFRAXⓇを治療開始基準に取り入れています。骨折リスクが高い(=将来骨折しやすい)人は治療開始のハードルを低くしましょう、と考えているわけです。
原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準
原発性骨粗鬆症とは続発性ではない骨粗鬆症のことです。ガイドラインでは下記のような原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準を示しています。
①大腿骨近位部や椎体の脆弱性骨折があるとき(骨密度は考慮されません)、②大腿骨近位部や椎体以外(肋骨、骨盤、上腕骨近位部(腕の付け根)など)の脆弱性骨折があり、骨密度がYAMの80%未満であるとき、③脆弱性骨折はないが、骨密度がYAMの70%以下または-2.5SD以下であるとき、④脆弱性骨折はなく、骨密度がYAMの70%以上80%未満であり、大腿骨近位部骨折の家族歴があるとき、そして⑤脆弱性骨折はなく、骨密度がYAMの70%以上80%未満であり、FRAXⓇの10年間の骨折確立が15%以上であるときが該当します。
この基準では脆弱性骨折の既往、骨密度、骨折の家族歴、将来の骨折の危険度(FRAXⓇ)により分類し、骨折リスクが高い骨粗鬆症の人に薬物を始めるように提案していることがわかります。
まとめ
骨粗鬆症の定義と診断・治療開始基準(後編)
骨粗鬆症の診断基準
骨粗鬆症による骨折の危険因子とその評価
原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準