くも膜下出血 は脳卒中の中で最も 予後 が悪い病気で、しばしば心肺停止状態で病院に運ばれます。また救命できても重度な後遺症が残る場合も少なくありません。
くも膜下出血の予後に最も関係するのは発症時の意識障害の程度であり、重症度分類も意識障害の程度を重視して構成されています。
病院では再出血予防を目的として手術が施行されますが、非常に重症である場合は手術が施行されないこともあります。
くも膜下出血の予後
くも膜下出血の予後
くも膜下出血は脳卒中(脳血管障害)の中で最も死亡率が高い、すなわち予後が悪い病気であることが知られています。
先日協和企画から出版された「脳卒中治療ガイドライン2015年度版」(日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会編集、以下“ガイドライン”と略します)ではくも膜下出血全体での死亡率は約10~67%と記載されています。
数字に大きく幅がるのは海外で発表された4つの論文を引用しているからです。日本では、くも膜下出血を起こしてから1月以内に死亡する人がおよそ30%、救命はできたものの高度な障害が残る人が約10%程度と推定されています。
逆に言えば、60%程度はある程度の後遺症は残るものの(全く後遺症がないケースもあります)比較的元気に退院することになります。一方で、ガイドラインでは心肺停止状態で病院に搬送された患者におけるくも膜下出血の占める割合は6~16%としています。
発症時における意識障害の程度
くも膜下出血の予後に最も関係するのは発症時における意識障害の程度です。これは出血した部位や出血量に関係なく、出血したことがどれだけ脳神経にダメージを与えているかが意識障害に最もよく反映されるためです。
ただし、実際は発症してから救急車を呼び(あるいは第三者に救急車を呼んでもらい)、病院に搬送されてから治療が開始されるわけですから、病院に到着した際の意識障害の程度が予後と一番密接に関係する、とした方が現実的でしょう。
ちなみに上記のように予後が悪いことで有名なくも膜下出血ですが、意識障害や麻痺が全くなく、自分で歩いて(場合によっては自分で車を運転して)病院に来る患者さんもいます。こういった人は予後良好である場合が多いです(もちろんなかには来院後悪化するケースもあります)。
くも膜下出血の重症度分類
くも膜下出血の重症度分類にはHunt and Hess分類、Hunt and Kosnik分類、世界脳神経外科連合(WFNS)による分類などがあり、いずれも国際的に活用されています。一般にグレードが悪いほど予後は不良です。
以下に1968年に発表されたHunt and Hess分類をご紹介します。
GradeⅠ無症状か、最小限の頭痛および軽度の項部硬直をみる、GradeⅡ中等度から強度の頭痛、項部硬直をみるが、脳神経麻痺以外の神経学的失調はみられない、GradeⅢ傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状を示すもの、GradeⅣ昏迷状態で、中等度から重篤な片麻痺があり、早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある、GradeⅤ深昏睡状態で除脳硬直を示し、瀕死の様相を示すもの、以上5段階に分類されており、数字が大きい程予後が悪くなります。
専門用語が多くて難しいと感じるかもしれませんが、上述した意識障害に着目すると、GradeⅠとⅡは意識清明(意識障害なし)、GradeⅢは傾眠状態(周囲が呼びかける、肩をたたくなどすればすぐに覚醒するが、止めるとまた意識が混濁する状態)、GradeⅣは昏迷状態(大声で呼びかける、強くゆさぶる、皮膚をつねるなど痛み刺激を加えるなどをしないと反応しない状態)、GradeⅤは深昏睡状態(周囲からの呼びかけや物理的刺激に全く反応しない状態)と分類されています。
例外はあるのですが、一般的にはGradeⅠ~Ⅲまでは早期に治療が開始されれば助かるケースが多いとされています。
しかしGradeⅣやⅤになると脳のダメージが非常に大きいために、予後は極めて悪くなります。従って手術をしない(=手術を施行しても予後を改善させることができない)選択をされる場合が多くなります。
再出血の予防
くも膜下出血は1分でも早く治療開始が望まれる病気であり、診断の遅れは予後悪化につながります。なお発症後に予後を悪化させる因子として重要なものに再出血と遅発性脳血管攣縮(ちはつせいのうけっかんれんしゅく)があり、特に再出血は高率に予後を悪化させます。
くも膜下出血と診断されて手術適応がある場合、脳神経外科の医師により手術が施行されますが、これは動脈瘤の再破裂の予防、すなわち再出血を予防する目的で行われています。
まとめ
くも膜下出血の予後
くも膜下出血の予後
発症時における意識障害の程度
くも膜下出血の重症度分類
再出血の予防