「脳卒中の発症予防(脳卒中治療ガイドライン2015年度版より)(前編)」では、脳卒中を発症しないためには血圧のコントロールが大切ということをご説明しました。後編では、 ガインドライン に沿い 脳卒中 の危険因子である糖尿病や脂質異常症、心房細動の既往のある方の発症予防についてご紹介致します。
脳卒中の発症予防(脳卒中治療ガイドライン2015年度版より)(後編)
糖尿病
糖尿病は脳卒中の危険因子であることから、血糖値をよくすることが大切です。しかしながら、実際に血糖値を下げることで脳卒中を減少できることができたという臨床の現場での大規模調査の結果(これをエビデンスと言います)は未だに十分ではありません。
イメージとしては“理論上は正しいはずなのだが、証拠に乏しい”といった感じです。したがって、ガイドラインでも糖尿病患者では血糖コントロールが勧められるが、脳卒中予防効果に対する十分な科学的根拠がない(グレードC1)とされています。
これに対して2型糖尿病患者(1型と2型糖尿病についての詳細は別項で記載しています)に対する血圧管理や高脂血症管理については、特に脳梗塞に対する有用性が十分証明されています。
ガイドラインでは2型糖尿病患者では血圧の厳格なコントロールが強く勧められる、そしてHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)投与による脂質管理が強く勧められるといずれもグレードAで推奨しています。
脂質異常症
脂質異常症(いわゆる高脂血症)は脳梗塞の危険因子です。ガイドラインでは、脂質異常症患者へのLDL-コレステロールをターゲットとした、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)投与をグレードAで強く推奨しています。
なおHMG-CoA還元酵素阻害薬の詳細については高脂血症の薬の項をごらんください。
心房細動
心房細動と呼ばれる不整脈があると心臓に血栓(血のかたまり)が生じやすくなります。血栓は血流にのって移動し、脳の動脈を閉塞してしまうことで脳梗塞(心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)、あるいは心原性脳梗塞と呼ばれます)を引き起こします。
心房細動がある人に血栓ができないようにするために血を固まりにくくする薬を使用する場合があり、この治療は抗凝固療法と呼ばれます。
心房細動患者の心原性脳塞栓症の起こりやすさはCHADS2(チャッズ・ツー)スコアと呼ばれるもので点数化して評価し、点数が増えるほどリスクが高いことを意味します。
ガイドラインではCHADS2スコア2点以上の場合、非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(英語表記の頭文字からNOAC(ノアック)と呼ばれます)、もしくはワルファリンによる抗凝固療法の実施をグレードAで強く勧めています。
CHADS2スコア1点の場合ではNOACによる抗凝固療法をグレードBで推奨しています。CHADS2スコア0点の場合は条件付きで抗凝固療法が勧められていますが、グレードはC1にとどまります。
なおワルファリン療法の強度については、PT-INR(ピー・ティー・アイ・エヌ・アール)という採血検査で測定できる指標を2.0~3.0にするようにグレードAで強く推奨しています。
ただし70歳以上の高齢者については1.6~2.6にとどめるように勧めています(グレードB)。
補足
この他にガイドラインでは危険因子の管理として喫煙、飲酒、そして炎症マーカーについて記載されていますが、ここでは省略します。興味のある方は実際のガイドラインをご参照ください。
まとめ
脳卒中の発症予防(脳卒中治療ガイドライン2015年度版より)(後編)
糖尿病
脂質異常症
心房細動
補足