尿管結石 は背部痛、 腰痛 、側腹部痛、下腹部痛、鼠径部痛などの痛みを生じる病気です。痛みは激烈なこともありますが、基本的に予後は良好で、多くの場合は入院も不要です。ところが尿管結石と同じような腰痛を生じ、しかも緊急入院や緊急手術が必要となるコワイ病気が存在します。
ここではそのような疾患の代表例として腹部大動脈瘤、腎梗塞、腎細胞癌について説明します。
“尿管結石と同じような”腰痛を起こすコワイ病気
尿管結石と腰痛
腎臓にできた石(腎結石)が膀胱(尿をためているふくろです)に落ちてくるまでに尿管に引っかかると痛みを生じます。尿管に引っかかっている石を腎結石と呼びます。痛みの訴えかたには個人差がありますが、文字通り七転八倒して苦しみ、救急車で病院に行く人も少なくありません。
結石が存在する部位によって痛みの場所は異なり、腎臓や尿管の上部~中間にある場合は、背部痛、腰痛、側腹部痛として訴え、中間~下部にある場合には側腹部痛、下腹部痛、鼠径部痛として訴えます。
尿管結石の患者さんは特に夜明けにおける救急の現場ではしばしば来院する病気ですが、基本的に予後は良好で、生命を失う、あるいは緊急手術が必要になるようなことはありません(ちなみに尿管結石が夜明けに多いのは夜間の睡眠中に尿が停滞し、濃縮される結果結石ができやすいからだと考えられています)。
ほとんどの場合は例え救急車で来院しても帰宅することが可能です(通院は必要です)。ところが、尿管結石と同様の腰痛、側腹部痛、下腹部痛を生じ、しかもただちに入院した家で緊急に手術などの処置を存在する病気がいくつか存在します。
これらの病気を尿管結石と誤診してしまうと、命にかかわる場合もありえます。この項ではそういった一見すると“尿管結石と同じような”腰痛を起こす代表的なコワイ病気を順に3つ説明していきます。
腹部大動脈瘤
腹部大動脈瘤(Abdominal aortic aneurythm:AAA)が破裂する、もしくは破裂しかけている(切迫破裂)場合に腹痛、もしくは尿管結石と同様の腰痛や背部痛を生じます。通常は突然生じる痛みで発症します。
腹部大動脈瘤破裂を見逃して治療が適切になされない場合、死亡することも十分ありえます。この腹部大動脈瘤の誤診例の第一は実は尿管結石なのです。そのため、救急に関する医学書ではしばしば尿管結石の項に、“腹部大動脈瘤(破裂)を見逃すな!”との記載がされています。
腎結石や尿管結石では血尿を認めることが多い(全例はなく、血尿を示さない尿管結石もあります)のですが、やっかいなことに腹部大動脈瘤でも血尿を伴うことがしばしばあります。
腹部大動脈瘤と尿管結石を鑑別するためにはエコー(超音波検査)やCT検査が有用です。治療法など腹部大動脈瘤の詳細については他項で詳しく説明していますので、ぜひ一読してください。
腎梗塞
心筋梗塞は心臓に酸素・栄養を供給している動脈が閉塞する病気ですが(心筋梗塞(急性心筋梗塞)については別項で詳しく説明しています)、同じようなことが腎臓で起こる疾患が腎梗塞です。やはり尿管結石と同様の腰痛や背部痛、側腹部痛が通常突然に起こります。
悪寒(おかん)、発熱、嘔吐をともなう場合もあります。心房細動(高齢になるほど多くなる不整脈の1種で、詳しくは別項をごらんください)や人工弁を入れている人(心臓弁膜症などのために手術で心臓の弁を入れ替えている人。心臓弁膜症についての詳細は他項参照)など血液中に血栓(けっせん。血のかたまり)を生じやすい人に起こりやすい病気です。
腎梗塞でも腹部大動脈瘤と同様に血尿を認めることがあります。診断にはCT検査が有用ですが、通常のCT検査(単純CT)ではなく、造影剤を注射して撮影するCT検査(造影CT)が必要になります。MRI検査や血管造影検査が行われることもあります。
血栓溶解薬(血栓と溶かす薬剤)や抗凝固薬(こうぎょうこやく。血を固まりにくくする薬剤)が使用されます。ケースによってはカテーテルをいう器具を血管内に入れて動脈が閉塞している部位に進め、閉塞している部位の血栓を直接溶かす、あるいは吸引する治療を行う場合があります。
腎細胞癌
腎臓細胞癌(じんさいぼうがん)は腎臓にできる癌です。この癌が出血して腎臓内の腎盂(じんう)と呼ばれる部分や尿管を閉塞すると痛みを生じます。
閉塞している原因が結石なのか出血なのかの違いだけですから、腎細胞癌での腰痛が尿管結石の腰痛とよく似ていることはイメージしていただきやすいと思います。
血尿を認めることも尿管結石と同様です。やはり診断にはCT検査やMRI検査が有用です。治療は癌に対する手術や化学療法(抗がん剤)が必要になります。
まとめ
“尿管結石と同じような”腰痛を起こすコワイ病気
尿管結石と腰痛
腹部大動脈瘤
腎梗塞
腎細胞癌