糖尿病にはさまざまな病気が合併しますが、胃腸症状を伴うことも少なくありません。特に便秘は胃腸症状の中で一番頻度が高く、自律神経障害と関係していると考えられています。
便秘は生活習慣の改善や酸化マグネシウム製剤等の緩下薬などで対処しますが、特に高齢者ではその副作用に気をつける必要があります。また 糖尿病 でリスクが増加するとされる大腸がんが原因で 便秘 を起こしていることもあることにも注意が必要です。
便秘に悩む糖尿病患者さんは少なくありません
糖尿病患者の胃腸症状
糖尿病のこわい点は、血糖コントロールや糖尿病を患っている期間(専門用語で罹病期間と言います)に応じて全身のさまざまな部位に合併症が起こってくることです。
糖尿病の合併症としては腎臓(糖尿病性腎症)、目(糖尿病性網膜症)、神経(糖尿病神経障害)や大血管障害(狭心症・心筋梗塞、脳梗塞、下肢閉塞症など)が有名です(それぞれについては他項で詳しく説明しています)。
これらに比べるとあまり有名ではありませんが、胃や腸にも便秘、下痢、胸やけ、腹部膨満感(おなかがはった感じ)などのさまざまな合併症が起こることがあり、これらの消化器症状に悩んでいる糖尿病患者は実に7割に達するという1983年の報告もあるほどです(Feldmanら。Ann Intern Med)。
消化器の合併症は糖尿病に伴った自律神経障害や微小循環障害が深く関係していると考えられています。そのために糖尿病に認められる消化器合併症は罹病期間が長く、血糖コントロールが悪く、神経障害(特に自律神経障害)が進行している人に多い傾向があります。
便秘
便秘は糖尿病の消化器症状の中で一番頻度が高い症状で、一般的には20%前後の糖尿病患者が便秘で悩んでいると言われています。
主に大腸の運動機能障害や自律神経障害が関連しているとされています。神経障害に対する特効薬は現時点ではありません。
したがって実際の臨床現場では繊維の多い食品を摂取する、生活や排便を規則正しくするなどの生活習慣の改善とともに、さまざまな種類の便秘薬(緩下薬(かんげやく)と言います)で対処していくケースがほとんどです。
これらに加えて摘便や浣腸が必要となる人もいます。もちろん血糖値を適切にコントロールすることも重要です。
酸化マグネシウム製剤
酸化マグネシウム製剤は上述した緩下薬の1種で、糖尿病患者さんも含めて便秘症患者さんにしばしば処方されています。とてもよい(=排便コントロールがつきやすい)薬なのですが重篤な副作用が起こるケースがあります。
日本の医薬品医療機器総合機構は酸化マグネシウム製剤を服用した後に血圧低下など高マグネシウム血症を起こして死亡したとの報告が2012年から4件あったと2015年10月に発表しました。
これを受けて厚生労働省は特に報告が多かった高齢者の服用について、薬の添付文書で注意喚起するように通達を出しています。
酸化マグネシウム製剤を使用している人全員に副作用が起こるわけではありませんが、高齢の方は気にとめておく必要がありそうです。
また高齢者以外には腎機能が悪い人で血液中のマグネシウム値が上昇する傾向にあります。重度の糖尿病性腎症がある人は要注意です。
大腸がんが原因で便秘となることがある
大腸がんが原因で便秘を生じている場合があることに注意が必要です。日本糖尿病学会は2013年に日本人糖尿病患者が糖尿病でない人に比べて大腸がん、膵臓がん、肝臓がんのリスクが増加していると発表しています(ちなみに乳がんや胃がんなど他のがんについては関連がない、もしくは一定の見解が得られていない、としています)。
これらのがんは起こりやすいというだけで、糖尿病であるから必ず大腸がんになるという意味では全くありません。しかしながら重症の便秘に悩んでいる人は糖尿病や年齢のためと思いこまずに、主治医の先生に相談するとよいでしょう。
特に便に血が混じる場合や、ダイエットをしているわけでもないのに体重が減少してきている人は要注意です。
なお厚生労働省は40歳以上の人は毎年大腸がん検診(問診と便潜血検査)を受けるように推奨しています。受診していない人は、是非今年から受けることをお勧めします。
まとめ
便秘に悩む糖尿病患者さんは少なくありません
糖尿病患者の胃腸症状
便秘
酸化マグネシウム製剤
大腸がんが原因で便秘となることがある