大腸がんは一般的には50~70歳代に多く、60歳代にピークがあります。しかし遺伝性 大腸がん では比較的低 年齢 で大腸がんが発症します。家族性大腸腺腫症は40歳代で50%、放置すればほぼ100%に大腸がんが起こります。
リンチ症候群では平均50歳で大腸がんを発症し、生涯の大腸がん発生率は80%程度と推定されています。いずれも常染色体優性遺伝性疾患です。
若い年齢で発症する遺伝性の大腸がんがあります
大腸がんの好発年齢と危険因子
大腸に生じる悪性腫瘍である大腸がんは50~70歳代に多く、60歳代にピークがあります。ところが、より若い年齢でも大腸がんになる人たちが存在することが知られています。
大腸がんの危険因子には欧米型の食生活(高脂肪、高タンパク、低食物繊維の食事)、遺伝的素因、炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎が重要です。
この病気については他項で詳しく説明しています)などが重要ですが、特に遺伝的素因が強い、あるいは遺伝的素因が決定的な影響を与えている大腸がんを遺伝性大腸がんと呼びます。
遺伝性大腸がんは比較的低年齢で大腸がんが発症するだけでなく、生涯にわたって繰り返し大腸がんやその他のがん発生の危険を背負い、さらに次の世代にも影響する可能性がある点できわめて重要な病気です。
2012年にはガイドライン(遺伝性大腸癌診療ガイドライン、大腸癌研究会編、金原出版)も発表されています。
この項では複数ある遺伝性大腸がんの中から、ガイドラインでも取り上げられている家族性大腸腺腫症(かぞくせいだいちょうせんしゅしょう。familial adenomatous polyposis:FAP)とリンチ症候群について説明します。
なお家族性大腸腺腫症とリンチ症候群は大腸がんの1~5%程度を占めるのではないかと考えられています。
家族性大腸腺腫症(FAP)
家族性大腸腺腫症は常染色体優性遺伝性疾患(この遺伝形式では患者の子どもは男女に関係なく50%の確立で病気を発症します)で、癌抑制遺伝子の1つであるAPC遺伝子などに変異を生じていることで発癌が起こります。
典型的には10歳頃までに大腸にポリープができ始め、20歳頃までにはポリープが多発するポリポーシスの状態となります。ちなみに“ポリープの多発”とは100個以上程度を基準としますが、他の症状や家族歴から診断が明確である場合には30個程度でもポリポーシスとして扱われます。
多い場合ではポリープの数は数万個にも達します。これらのポリープは高率にがん化することが知られており、40歳代で50%、放置すればほぼ100%に大腸がんが起こります。
最初に記載した一般的な大腸がんよりも低年齢で大腸がんを生じることがおわかりいただけると思います。また大腸がん以外の消化管病変(胃のがんやポリープ、十二指腸のがんやポリープ)や多臓器の病変(子宮がん、甲状腺がん、顎骨腫瘍、網膜色素上皮肥大など)を伴うことがあります。
最後の網膜色素上皮肥大は文字どおり網膜にできる病変ですが、視力に差し支えはなく、がん化することもないので、治療する必要はありません。ただ大腸ポリープよりも早期に出現するために、家族性大腸腺腫症をより早い時期に診断することに役立ちます。
家族性大腸腺腫症の治療
現時点ではポリープががん化していくことを抑える治療法は確立されていなために、基本的には大腸を全て手術で摘出する治療(大腸全摘術)が行われます。
特に遺伝子診断などで家族性大腸腺腫症の診断が確定している場合には、症状(血便、下痢、腹痛など)が出ていなくても、20歳までに大腸全摘術を施行されるケースが多数あります。
未成年に病気や検査、治療(手術)など重い内容の説明を行う必要がありますので、遺伝カウンセリングを含めた心理的あるいは社会的なサポートが求められます。
リンチ症候群
リンチ症候群(Lynch症候群)は私たちの遺伝情報をつかさどるDNAのミスマッチを修復する遺伝子の変異が原因で起こる病気で、家族性大腸腺腫症と同じく常染色体優性遺伝性疾患です。家族性非ポリポーシス大腸がん(hereditary nonpolyposis colorectal cancer:HNPCC)と呼ばれることもあります。
大腸がんを平均50歳で発症し、生涯の大腸がん発生率は80%程度と推定されています。右側大腸に好発、比較的予後良好、子宮体がんなど多臓器にもがんを合併するなどの特徴があります。
リンチ症候群は家族性大腸腺腫症のようにポリープが多発するわけではないので、それと認識されずに一般の大腸がんとして取り扱われていることも少なくないと考えられており、今後の課題となっています。
まとめ
若い年齢で発症する遺伝性の大腸がんがあります
大腸がんの好発年齢と危険因子
家族性大腸腺腫症(FAP)
家族性大腸腺腫症の治療
リンチ症候群